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誰も彼もが、どことなくそわついて赤と緑の飾りに顔を綻ばせる12月。
ここ、アニメイトで働くアニ・コンメンバーもその例外ではない。
店内にクリスマスの装飾を施す作業に、誰よりも早く名乗りを上げたルチルは、去年の飾りつけの残りが入った箱を覗きつつ、今年はどんなクリスマスイルミネーションにしてやろうと思惑を巡らせていた。
去年はゴールドとシルバーとブルーを基調にしてちょっと大人っぽくしたところ、店にやってきた双子の妹たちから、もっとかわいいほうがよかったとえらく文句を言われ後悔したので、今年は鮮やかな色味を使って思いっきりかわいらしくしてやろうと思っている。足りないものはチーフにお願いして経費で買ってもらわないとなあなどと、口元を緩ませつつ考えていると、
ふらりとアゲハがやってきた。
「OH! クリスマスの準備か? 日本人はほんと祭りごとが好きだよな!!」
「店の中をふらついているだけで、暇なら手伝え」
「なんだと!? クリスマスロードの真っ只中でツーステップを刻むこの俺様の手助けが欲しいのか!? OK!」
正直面倒なこの個性にも、いい加減慣れてきたルチルは、アゲハにあれこれと指示を出す。アゲハは箱をひっくりかえしつつ、言われたものを探していたのだが、四つ目の箱をひっくり返したとき、変な声をあげた。
「どうかしたかー? 黒光りするアイツでもいたか?」
「この清潔極まりないアニメイトにそんな兵器はナッシン! つーか俺様すごいことに気付いてしまったんだが……! おっとそんなに聞きたそうな顔すんなよルチルん!」
「あ、聞いてほしいならそう言って?」
「ルチルん、俺様のこと簡単に扱っちゃ嫌だぜ!! 俺様このアニメイトのリーサルウエポンロードで白イルカのごとく優雅なジャンプを見せているのに!」
「はいはい、それで?」
「実はな……」
アゲハが開けた箱には、クリスマスの飾りに紛れ込んで店舗に使用した昨年の正月飾りが入っていた。
「クリスマスを祝って、直後に正月祝うとか、節操なくね!?」
「ええ……? あんま考えたことねえなあ…」
「やっぱ男たるもの一本筋が通ってなんぼでしょ!」
「んー何事も全力で楽しむって意味じゃ、一本筋が通ってるじゃねえの?」
「うっわやべ、まじそれジャスティス!!」
いいから手を動かせと思いつつ荷解きの作業に戻ったルチルは、ふと、一昨年のことを思い出しくすくすと笑った。
「あれ? ルチルん、どうしたの?」
「ああ、ただの思い出し笑い」
「ノンノン!水臭すぎるぜ!お前のその笑顔の理由を俺様にも教えてくれ!」
「うーん、あのさ、アニメイトって店舗のニューオープンフェアとかリニューアルフェアをするじゃん?」
「YES!来店されたお客様に先着でプレゼントとか、店限定の特典とかをやっているよな。」
「そうそう、そのとおり。その時はハロウィンだったから、それっぽい先着プレゼントとかあったんだけどさ……」
当時、アニ・コン養成学校を卒業したばかりだったルチル・ユヅ・シノは、美尾の部下としてウサギ組に配属されたが、なかなか仕事にもなじめず、お客様にも迷惑のかけ、失敗ばかりの毎日だった。
そんな中、ちょうどハロウィンに合わせて店舗の改装リニューアルがあり、その準備のために数日店舗が閉まることになった。
美尾は、日ごろの失敗ばかりで落ち込んでいたメンバー3人に、
「いい機会だから気分転換をしなさい」と言ってくれた。
なにか楽しいことをして気を紛らわせて、リニューアルからはまた元気に働こうと言い、送りだした。
それぞれ、思わぬ休日の予定に何をしようかと思案していると、ユヅがぽつりと言いだしたのだ。
『日ごろ僕らの失敗を笑って許して下さるお客様へ、なにかプレゼントを贈らない?』
ルチルもシノも賛同し、この休みを使ってみんなでリニューアルオープン記念兼、いつもありがとうプレゼントを作ろうということになったのだ。
そして3人は、たくさんたくさん手書きのカードを作った。
日ごろの感謝の言葉や、お勧めの商品の説明、店舗の近くのおいしいごはん屋さんや、穴場なスイーツのお店のことなど、店では失敗ばかりで、うまくコミュニケーションをとることができなかった3人には、お客様に伝えたいことはいくらでもあり、毎日遅くまで楽しい時間を過ごしていた。
いつかは、こんなことを普通にお客様とお話できたらいいな、そんな日がくるよう頑張ろうと、各々ひっそりと心に決めたのだった。
そして、リニューアルオープン当日。
ハロウィンイベントとも重なって、朝からたくさんのお客様が訪れた。
メンバーが作った手書きのカードは、店の入り口にそっと置いておいただけで、忙しくててんてこまいだった3人は、すっかりカードのことは忘れてしまっていた。
そして、閉店を迎えようかというとき、小さな包みが店に届いたのだった。
普段、こんな時間に店宛てで荷物が届くことなどない。
不思議に思いつつ美尾が箱を開けると、中から小さな花束が出てきた。
アニ・コン統括の藤掛さんからの贈り物かなあ、などといいながら、添えられていたカードを開くと、美尾がにっこりと笑った。
「やっぱり藤掛さんからですか?」
「ああ見えて意外と神経細かい人なんスね〜」
「ああ見えては失礼だぞ、ルチル……」
美尾がにこにことカードを差し出したので、3人はそれを覗きこんだ。
『アニ・コンのみなさん、いつも助けてくれてありがとう これからもよろしく by常連一同』
「これは、君たち宛てだね」
「え? え?」
「うわあ……」
「俺達など……なんの役にも立ててないというのに……」
「それでも、これは君たちへの感謝の言葉だね。仕事はいまいちでも、気持ちは届いていたってことかな? これから、もっともっと一緒に頑張っていこう」
・・・・・・・・・・・・
「いやあ、泣いたね! あのときは! マジ泣きだね!!」
「ううっ……、ルチルん……そういう話は無しだぜ……! 俺様泣いたら壊れちゃうんだからなっ! 塩水ってすげえ錆びるんだからな……っ! ぐすっ……、あ、手書きのカードはどうなったの?」
「うん、なんか、その手書きのカードに気付いてくれた常連さんが有志を集めて花束贈ってくれたんだよ」
「なんと……!! とんでもジャスティス……っ!!」
「あれ以来さ〜、イベントごとっていうと、無意識に張り切っちゃうんだよなあ」
正月飾りに埋もれてむせび泣いているアゲハをそのままに、ルチルは今年のクリスマスも張り切るぞ!と腕まくりをするのだった。
おわり
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