Web小説 Vol.3「Clear Autumn Day Service」


「あ〜なんで俺様が買い出しになんて行かなきゃいけないのー?」
「買い出しは下っ端の勤めですよ! オレとアゲハ先輩の大切な仕事です!」
「まあ一番に食べられるし、いいんだけどね」
「あー!食べてる! アゲハ先輩がつまみ食いしてたってみんなに言いつけちゃいますからね」
「じゃあお前も共犯だ!」

そういってアゲハは持っていたプレッツェルをメグの口に突っ込み、ニッと笑ってみせた。
今、ふたりは、休憩時間中のアニ・コンメンバーの楽しみであるおやつを連れだって買いに出て、メンバーからの
リクエスト通りのものを抱えて、赤や黄色に色づき始めた街路樹の並ぶ道を歩いていた。
急に口にものを突っ込まれたメグは、目を白黒させている。

「俺様とメグたん、はからずも恋人食べだな!」
「…………」
「OH……黙ることないのにぃ……俺様のハートは星屑限界OVER!」
「……はあ……」
「え? ちょっとちょっとー! メグたんこんなことでいちいちマジ凹みしてたら地上に舞い降りた伊達ワル妖精な俺様と
仲良くやっていけないんだぜ〜!」

 急にテンションの下がったメグの肩をバンバン叩きながら、またもふざけた物言いをしていたアゲハだったが、
メグの顔がいつになく神妙なのを見て、ふと声のトーンを落として問いかけてみた。

「メグたん、あのー、いつもの俺様の軽口だから、気にしないでな」
「いえ、すみません、違うんです。アゲハさんのおフザケなんてはじめからオレが落ち込んだりする対象じゃないんです」
「おっとメグたん俺様リアルにブロークンハートだぜ……。まあ、それはいいとして、
急にどうしたんだ?」

 アゲハはメグの顔を覗きこみ、急にしょんぼりとしてしまった理由を聞いてみた。
 メグが反応したのは、アゲハの『恋人』という言葉。
 先般、ルチルやシノ・ユヅの、過去の恋愛話を聞く機会があったらしい。
 青春真っ盛りで、もちろん恋愛にだって興味がないことはないメグは、後学のためにと熱心に皆の体験談を聞いていた。
 メグはといえば、今でこそ積極的になってきたものの、元来おとなしい性格の持ち主なため、恋愛方面にはとんと疎い。
 ちょっと気になるかな、という子がいるにはいるが、接触といえばたまにメールをするくらいの間柄で、自分よりもそこらの野良猫のほうが彼女によっぽど構われているくらいだ。
 そんな自分をおかしいと思うようなことはなかったのだが、諸先輩がたの甘酸っぱい学生時代の恋愛トークを
聞いているうちに、あまりに自分とはかけ離れていることにちょっとだけショックを受けてしまったのだという。

「ふーん、ルチルんはともかく、メグちんやシノっちがねえ……」
「それでオレ、ちょっとだけ焦っちゃったっていうか……相手がいないことにはどうにもならない問題だってわかってるんですけど……」
「OK! 特訓しようぜ!!」
「は!?」
「メグたんにいつ彼女ができてもいいように、完璧なデートコースを模索するんだ!」
「アゲハ先輩、オレの話ちゃんと聞いてました?」
「半分くらい!!!! でも特訓しようぜ!! あたって砕けたらかっこわりぃじゃん! モテロードの真っ只中をフェニックスのごとく華麗に舞いまくってる俺様が、レクチャーしてやんよ!!!」

 押しには滅法弱いメグは、アゲハの強引な言い分に押し黙るしかなかった。
一応、アゲハの言うことにも一理はあったので、店に帰るまでという約束で、しぶしぶその特訓を受けることになった。
 アゲハの特訓は、好きな子と初めてのデートのプランを立てろというもの。
 休日の外出先の7割が趣味のアニメ関連だったメグは、相当頭を悩ませることになった。

「えっと、アニメイト行って……古本屋行って……フィギュアとか見て……カードゲームショップ行ってちょっと対戦して……
おなかすいたら牛丼屋はいって……ゲーセンいって……」
「うん、メグたんそれは一人で行っとこうか」
「うーんと、じゃあ、楽器屋行ってギター見て、楽譜とか見て、ドラムとかベースとかサックスとかも見て……」
「メグたん楽器弾けたっけ?」
「いいえ、エアーです」
「…バレると、大人になってもベッドでのたうちまわるレベルで恥ずかしいからやめておこうか」
「ええと、ええと、キャンプ行って魚釣ってバーベキューして、俺は見張りをするから夜は外で寝るとか言って……」
「その役目はお父さんに任せておこう」
「……じゃあ、もうどうしたらいいんですかー!? オレこれ以上無理です!」

「これ以上って…!? OHメグボーイ、全部本気で言ってたのね…」

 メグの恋愛スキルのあまりの低さに、多少のことでは顔色ひとつ変えないアゲハも蒼白になっていた。

 アニ・コンのメンバーに出会うまで、メグは自分の趣味を優先しすぎるあまりに父親と衝突することが多かった。
そのため、心のどこかで自分の趣味を恥じてしまい、結果仲間を作ることなくひとりの世界に没頭する悪循環の中にいた。
 もちろん今はすっかりそんなことはなくなっているのだが、長いことそのような環境にいたせいで、同年代との
コミュニケーションが下手なのも事実だった。
これは相当、改善の余地がある。
確かに現状のメグの恋愛ポテンシャルは好きな子を虐めてしまう小学生男子より低い。ただ、アニ・コンの一員になり、
自分の世界を広げ、日々新しい発見や気付きを経験しているメグは、今すごいスピードで成長している。
 それを微笑ましく思っているアゲハは、ちょっとだけヒントをあげることにした。

「メグたんは最近ルチルんたちとどこ行って楽しかったんだ?」
「ファミレスとカラオケ! ドリンクバーで3時間ねばった後、6時間も歌っちゃいましたよ」
「そういう普通のでいいんじゃないの?」
「え?」
「二人で楽しくならなきゃいけないんだから、一人だけが楽しいとかだめだよ。あと、かっこいいところ見せたいからって嘘もだめ。二人で楽しめるなら、特別なところなんて行かなくていいんだよ。普通でいいと思うよ」
「そうかあ……」

 肩の力がふっと抜けたメグの肩をがっしり抱いて、アゲハはウィンクを贈った。
 
「ちょっと、オレ落ち込みました……」
「いやーメグたん、これからだよこれから! この俺様がレクチャーすれば、メグたんもあっという間にモテロードのど真ん中に……」
「そういうことじゃありません」
「え?」
「生まれて数年の人口AIのアゲハ先輩にすら恋愛スキルで負けたっていうのが、なんか悔しいんです……」

 アゲハはメグに思いっきりプレッツェルをぶつけると、物凄い速さで走り去って行く。

「痛っ…!! ちょ、ちょっとアゲハ先輩!?」
「メグたんの馬鹿!! 師匠にそんな口をきく弟子なんか破門だーー!!!!」
「え!? で、弟子!? アゲハ先輩!! 待って下さいよ!!」

その後、二日間どんなにメグが話し掛けてもアゲハが口をきくことはなかったという。


おわり